『仕方ないよ。あれだけ頑張ったんだもん、聡はよくやったよ。』


『ありがとう……』


ふらつく足で立ち上がると、ナヨナヨと家に向かって歩きだした。


前を見ずに歩いていると、目の前に立っていた人に気づかずぶつかってしまった。


「痛ってぇな、どこ見て歩いてんだよ!」


相手の怒鳴り声。前を見ると、いかにもチンピラ風の男が立っていた。


「うるせぇな……」


「あ?このガキ、今何て言った?」


チンピラの顔が聡に近づく。


「うるさいって言ったんだよ、バーカ!」


普段なら謝るところだが、気が気でない聡はそう言ってチンピラの胸ぐらをつかみ上げた。


次の瞬間、聡の目の前が真っ黒になり、気がつくと尻餅をついていた。


じわじわと頬にくる痛み。


「もういっぺん言ってみろ、クソガキ」


そんな言葉など耳に入らず、もう音楽をやっていけない……そのことで頭がいっぱいになり、聡は再び静かに泣き出した。


「なんだこいつ……気持ち悪っ」


そう言い捨てたチンピラは、駅に向かって去って行った。


そのとき、聡の携帯電話が鳴る。


『聡……ダメだよ、無茶しちゃ。』


『ごめん……俺、やっぱ音楽をやめたくない。どうしたらいい?』


『別に音楽を仕事にしなくてもいいじゃん。趣味でずっと続ければいいじゃん。私は、聡の音楽やってる姿が好きだよ。』


『でも……』