( 新撰組 * 恋情録 )


 >> 沖田side

 足速に屯所の長い廊下を抜けて行く。
 たったそれだけの運動でも、
 病み上がりの体には ぽつりぽつりと
 嫌な汗が滲み出してきていた。

 直線の長い廊下を抜け、一つ目の
 角を曲がった所で 俺はぴたりと
 立ち止まる。





 「 ま、ず‥本当に限界、かも 」





 くらりと歪む視界。俺は眉間を押さえて
 壁伝いにずるずると座り込んだ。



 「 っは‥― 」



 体が重い。体力なんて、落ちて
 いるに決まっていた。





 「 正味三秒が限界、か‥ 」





 僅かに震え続けている右手を
 目の前に翳す。

 病み上がりの体は、たったの三秒しか
 刀を握る事を許してはくれなかった。



 「 ははっ、情けないなあ‥ 」



 そのまま拳を握り締め、額に当てる。

 拭っても拭っても、滲み出る汗は
 暫く止まりそうにない。



 「 っ、‥― 」



 不意に喉の奥から込み上げてくる
 渇いた咳を、無理矢理押し留める。



 此処じゃ駄目だ。あの子に
 聞こえてしまう。



 「 ‥っ は、あ‥―― 」



 漸く波が去った頃、ふと感じた気配に
 俺は息を整えながら顔を上げる。










 「 ‥‥どうかしたんですか、土方さん 」

 「 ‥‥それは俺の台詞だ 」