( 新撰組 * 恋情録 )


 思わず口を押さえたあたしを
 横目に、総司は立ち上がる。

 「 ‥それじゃ、そろそろ皆に 君が目を
  覚ましたよって伝えて来ようかな。
  早くしないと、土方さんが煩いしね 」

 残念、後一回だったのに。等と
 軽口を叩きながら襖を引く彼の
 背中に、あたしは慌てて言葉を投げた。

 「 ちょ、ちょっと待って! 」



 何であたしの前では敬語
 じゃないの、とか

 山南さんの様子とか。

 総司の体調は本当に大丈夫なの、とか。



 まだまだ聞きたい事がたくさんあって。

 あたしは彼を引き止めずには
 いられない。



 「 も、もう行っちゃうの‥? 」



 言った途端に、総司の背中が
 ぴくっと固まる。



 「 ‥‥‥ 」



 たっぷりの間を挟んでから、
 彼は振り向かないままで小さく呟く。










 「 ‥‥何て言うか、それは反則。
  まどろっこしい決まりなんか
  無視で、君に口付けしたくなる 」










 ふぇ? と驚きの声が口から
 漏れるよりも早く、総司は後ろ手で
 襖を閉めていた。



 「 ‥また夜にでも来るよ。取り敢えず
  今、これ以上は‥俺が限界だから 」



 早足で去って行く総司の足音が
 聞こえなくなっても、あたしは
 暫く呆然としたままだった。