( 新撰組 * 恋情録 )


 ( ‥はっ! ぼ―っとしてたら
       また迷子になっちゃう! )

 「 ひ、土方さん待って―っ! 」

 慌てたあたしが土方さんに
 追い付く頃には、もう目の前に
 お風呂場が見えていた。

 ( あれ、案外近かったんだ‥ )

 もしかして自分は
 方向音痴なのかもしれない、と
 今更ながら落ち込みつつ
 促されて脱衣所へ入る。

 当然だけど、土方さんは
 入って来なかった。

 「 ‥ふぅ‥‥ 」

 やはり現代とは全然違う
 お風呂に悪戦苦闘した後
 土方さんの用意してくれた
 着物に袖を通す。

 それはどこから探して来たのか
 きちんとした女物で、微かに
 知らない女の人の匂いがした。

 ( 土方さん、恋人が居るのかな‥ )

 だとしたら着させて頂いて
 申し訳ないという気持ちと、
 哀しいような切ないような
 なんだかよくわからない気持ちが
 同時に込み上げてきて、
 胸がきゅっと狭くなった。

 ( 何だろ、この気持ち‥ )

 あたしが " この気持ち " の意味を
 知るのは、もう少し先のこと―‥