( 新撰組 * 恋情録 )


 呆れた顔であたし達の前に
 立ったのは、先程何処かへ
 消えたはずの土方さん。

 「 ひ、土方さん‥? 」

 「 ほら、風呂の道具用意してやったから
        さっさと行って来い。 」

 「 え、っと‥何で急にお風呂‥? 」

 はぁ―、っとため息をついてから
 あたしの着物の袖を捲り上げ、
 あらわになった肘にそっと触れる。

 ちく、っと小さな痛みが走った。

 「 ‥此処、擦りむいてる。
    それに、走って汗かいたろ。
       風呂行って流して来い。 」

 どうしてこの人は、こんな小さな傷に
 気が付くんだろう。

 浪士から走って逃げていたあたしを
 思い出して、そんな風に自然と
 気遣えるんだろう。

 「 ありがとう、ございます―‥ 」

 何だか胸が一杯になってしまって、
 急いで道具を抱え込むと
 あたしは道場を出て、
 お風呂場へと走った。