( 新撰組 * 恋情録 )


 再び立ち上がり部屋中を睨むが
 随所には闇が潜むのみ。



 「 くそったれ‥! 」



 そう吐き捨てるように言って
 視線を凜咲に戻した刹那―‥



 俺は言いようの無い恐怖に駆られる。



 「 ?! 」



 ―――凜咲の輪郭が陽炎の如く薄れ、
 ジジ‥という音と共に大きく揺らいだ。



 「 な‥ッ?! 」



 一瞬呼吸が止まる程慌てた俺は
 酷く荒っぽい動作で目を擦り、
 もう一度じっと凜咲を見つめる。



 「 っ‥見間違い、か‥‥? 」



 次の瞬間には、もう凜咲の輪郭は
 揺らいでなどおらず、ジジ‥という
 例の音も止んで辺りはしんと
 静まり返っていた。



 「 は―‥ 」



 大きく溜め息を吐き、その場に
 崩れ落ちるように座り込む。



 ―――見間違いであって欲しいと願う。

 けれど、薄らいだ輪郭の 揺らめいて
 消える陽炎のような危うさが、
 何時までも俺の中から消えない。



 目の錯覚と言われればそれまでで、
 本当にそうなのかもしれない。



 「 だけど、それなら‥ 」



 不吉にどくんと音を立てる心臓。



 「 この胸騒ぎは、何だってんだ‥! 」