* * *
―――あれは、昨日の夜のこと。
机上で筆を走らせていた俺の耳に
ジジ‥という何かが焦げるような
音が届いた。
「 何だ‥? 」
振り向いて辺りを見回すが、
火の手は見当たらない。
というより、今は蒸し暑い夏の真夜中。
火を焚いて暖を取る必要など
無いのだから、部屋の中に
それが見当たるはずも無い。
当然と言えば当然の事。
だからこそ余計に違和感を覚えた俺は
襖を引いて廊下に顔を出した。
「 何処か燃えてんじゃねぇだろうな‥ 」
舌打ちを一つ零して軽く辺りを
見回るも、やはりそんな様子は
見当たらない。
「 何だってんだ、ったく‥ 」
ガシガシと頭を掻きながら
部屋に戻れば、布団の上で
もう三日は眠りこけている
凜咲の姿が目に入った。
「 ‥良い加減起きろっての 」
床に広がる長い黒髪を指でなぞる。
――と、再びあの ジジ‥という
音が聞こえ、俺は目を細めた。
「 どっから聞こえて来やがる‥ 」
苛ついた声を出せど答えは返って来ず、
ジジ‥という渇いた音だけが
次第に大きくなり部屋を包む。
