( 新撰組 * 恋情録 )


 [ 土方side ]

 漸く辿り着いた長い廊下の奥の奥。

 ( ‥長い廊下をこれほど恨めしいと
  思ったのは、初めてかもしんねぇな )

 俺は息を切らして勢い良く襖を引く。





 「 ――ひ、じかたさ‥? 」





 そして襖の向こうで目を見開く凜咲を
 目に止めた瞬間、両足に込めていた
 力が一気に抜け、俺は床にがくんと
 膝を着いた。

 総司もこんな気持ち
 だったのかもしれないと
 ぼんやり考えていると、
 凜咲が焦ったように駆け寄って来る。



 「 ひ、土方さん?!どうしたの?! 」



 心配そうな声色に、加えて涙目。
 三日以上も見る事の出来なかった
 凜咲の表情を 懐かしく見つめる
 俺の理性は、もう限界に近く。





 「 馬鹿野郎‥心配させたのはどっちだ 」





 細い腕をぐいっと引き寄せ、
 小柄な体を俺の中に閉じ込める。





 「 あの‥土方、さん‥? 」





 後ろから手を回せば簡単に一周して
 しまうこの小さな体を、失いたくない。





 「 ‥良いから 」





 いきなり抱き締めたまま
 離さないなんて、不粋かもしれない。
 言葉足らずかもしれない。

 だけど今は、只こうしていたい。
 こいつの存在を確かめる為に。





 ―――嫌な疑念を、振り払う為に。