( 新撰組 * 恋情録 )


 一人残された俺はゆっくりと、
 二人とは逆の方向に歩を進める。



 ――途中再び込み上げる、渇いた咳。

 「 っ、こほ‥ごほッ 」

 堪え切れない程の大きな波に、
 俺の膝はがくんと地面に落ちる。



 「 ごほッ‥これから何が起きるかは
     よく知らないけどさ、か‥‥ 」



 手ぬぐいを取り出して口に当てる。



 「 嘘つき、だよ、ね。本当は一番、
    俺自身が良く分かってるくせに 」





 波が引いてそっと口から離した
 真っ白なはずの手ぬぐいは。





 「 ‥これ、どうやって洗おうかな 」





 この体を流れる真っ紅な液体で、
 中心部が染められていた。





 「 ‥受け止めなきゃいけない
          のは、分かってる 」





 震える拳を握り締めて。口から
 漏れたのは、誰にも聞かせたくない
 俺の本音、弱音。





 「 ‥だけど、抗いたい。いざその時が
  来てじたばた暴れない自信なんて、
  情けないくらい何処にも無いんだ 」





 だから今は、精一杯の強がりを。