「優、」
「ん？」
「深さん、居るよ」
ただ、優はその言葉に目を見開くだけで嘘だろうと思った。
「どこに？嘘だろ？」
重たい空気の中、それを破ったのは純一郎の声。
「オレンジ君……空気読めないの？」
風花の目線の先まで行こうとする純一郎を、良子が言葉で押さえ込む。
「優、見ておいで」
そっと、怜が背中を押す。
微かに、憂いを帯びた瞳を潤ませて小さく頷く。
「いっといで。」
ゆっくり、怜から離れて数歩先に居る風花の側に行き、その目線を追う。
「居た、」
決して、居ないはずの見慣れた後ろ姿。
「ごめんね、黙ってて」
「ううん。教えてくれてありがとう。」「行ってくる？」

ゆっくり首を縦に振りながらも、優はそれを見ていた。
悲しそうな背中。
今にも、飛びつきたくなる。
今日で最後と言い聞かせて、ゆっくり、深呼吸する。
一歩踏み出して、またその足を戻した。
「行かないの？」
「行く。風花、ありがとう。」
「うん。」
「怜、甘えてごめんね。」
「いいよ。」
「良子、ありがとう。」
「こっちこそ、ありがとう」
「加瀬君、今日はありがとう。」
「ありがとう。」
一人ずつ、言葉を交わすと自然と勇気が湧いてくる。