目線の先には、さっきの資料。
紙に穴があくのではないかと思う位、凝視している。
かろうじて、右手を出してはいるが位置が低い。
「はい。」
少し呆れたように、その手ではなく資料の上き鍵を置いた。
「びっくりするだろ!?」
「ぼーっとしてるから」
「悪かった。」
じゃあね、と純一郎はヒラヒラと手を振った。
「あぁ。頑張れよ、優。」
「うん。」
しっかり、流の目を見て頷いた。
バイバイ、と手を振り冷たい廊下へ続く角を曲がった。
「ねぇ、さっきの話しだけど?」
「辞めるって話し?」
「そう。日下部先生?」
「うん。資料持ってたら、優転校するからな。ってさらっと言われた。」
「そっか。先生か」
朝の会話を思い出して、顔が緩む。
「どした?」
「ううん。何でもない。」
おーい!!!!と、冷たい廊下の先で大きく手を振る人影は、首にカメラをぶら下げている。
「加瀬君、行こっ」
「おう。」
ほんの少しだけ、純一郎をせかした。
一気に、冷たい廊下を駆けた。
「お待たせ良子。」
「帰ろ、優。」
「うん。」
二人は、笑いあうと並んで歩いた。純一郎は、その後ろを静かに歩く。
あんなに騒がしかった廊下は、ひっそりと息を潜めている。