このまま

僕らは

シニシズム……



「……幸春」

それは聞きなれた声だった。

「待っていたよ、姫」

僕は読んでいた本を閉じて姫に微笑む。

「そろそろだと思っていたんだ。ずっと、待っていた」

「……」

姫は喋らない。

僕と違って、姫は感情を押さえつけるだけだから。

それでも、わかりやすいところも、僕は好きなのだけれど。

「最後に一つ、教えてあげるよ、姫」

姫はただ、じっと僕を見詰める。

「この世は絶対だらけなんだよ。偶然は起こってしまえば必然に。ありえない奇跡は真実でしかないし、どうしようもなく決まった未来もある」

そう、そしてそれは。

「たとえば、姫が僕を殺す事だって絶対だ。間接的にでも、直接的でも、僕と、姫がこの世界に生まれてきてしまった時点で決まっていたことなんだ」

「……うん」

「だって、人魚姫は王子を愛してしまったから。だけど、諦めざるを得ないから」

姫の金の瞳が煌くのを、僕は背中で感じた。

きっと、この夕日と同じ色なのだろう。

「そう」

姫の指先が喉に触れる。

最後に姫は僕を抱きしめて、泣いた。

僕はあやすように姫の腕に触れた。

喉を、何かが滑る。

血に沈んでいくなかで、僕は笑った。

幸せだよ。

だれがなんと言おうが、これが僕の幸せだ。




人魚姫は泡になり

王子は一人、ここに残される




それは悲しみ?