膝の上に置いていた右手を持ち上げて、“どうぞ”と手のひらを見せる。
すると春人は、自分の前髪を撫でつけながら、もう一度口を開いた。
「あの、えーっと、その、」
「うんうん」
「も、もう熱が出てもムリして学校行く必要ないし、その、前みたいに先輩に世話してもらう理由も、そんなに、なくなったから、」
「ほう」
「だからその、一緒に居る理由がなくなっちゃったから…もう、俺と一緒に居てくれないかなって、思って…ですね……」
「へえ」
「あ、あの、なんかその…すみません……」
「ふうん」
「……あれ、先輩いつの間に正座じゃなくなったんですか!?」
「え、さっき。」
「えぇ!?」
「お前が“理由”と口にした瞬間に正座ダルくなった。」
「ど、どういう…」
「だってふざけてんだもん。」
「え……」
「あたしがいつ“あんたの世話するためだけに一緒に居る”って言ったの。」
「あ……」
「勝手に決めつけられてキョウちゃん先輩は大変ご立腹であらせられるぞ。」
「先輩、日本語おかしいです……あ、すみません…!」
とっくの昔に崩してしまった正座の代わりに再びあぐらをかいたあたしは、加えて腕組みまでして床に正座する春人を見下ろす。
女王様ならぬ組長的な視界である。


