「……わかった」
躊躇なくあたしはうなずいて、彼の右腕を自分の肩に回した。
そして腕を引っ張り上げるように立ち上がる。
全体重をかけているわけではないようで、あたしでもそれなりに支えられる重たさだった。
そもそも“春人は”50数キロくらいしかない。
身長もそんなに差がないから、どうにか支えて歩ける程度。
なんとか自分の足で立てた彼は、あたしに半体重くらいを任せながら荒い呼吸を繰り返す。
支えた体は、こんなに冷たいのに。
「…歩ける?」
耳元で鳴る、もはや自分の脳内で鳴っているんじゃないかと思ってしまうほど近い警告音。
その音に混じってしまわないように、少し大きな声で問いかける。
彼が何も言わずに、項垂れた首でこくんと首肯したのを横目で確認して、あたしはようやく足を進めた。
「…家まで、もうちょっとだからっ」
すぐ傍で休む間もなく聞こえるサイレンと呼吸の音が、あたしの気持ちを急かした。
もうちょっと、もうちょっとだから、がんばって。
ほら、見えてきたから。家。すぐそこだから。
もはや誰を励ましているのかわからない、心の中だけでそう唱えながら、あたしは彼を支えて歩く。
ピーッピーッ!
もうお前、うるさい、黙れ。


