その右手には、ほとんど力が入っていない。
肩が上下する様子と、警告音と共に聞こえる呼吸は荒く、かなりの高熱だと瞬間的に思った。
でもそれは違うとすぐに勘付いた。
あたしの腕を掴む、彼の右手はとてつもなく、冷たい。
まるで氷。
いや、違う。
機械のような、冷たさ。
「……家にっ、」
「…えっ?」
「……つれてっ、帰って」
耳に張り付くサイレンのせいで、よく聞き取れなかったけど、確かに彼はそう言った。
救急車でもなく、病院でもない。
家。
彼は家に連れて帰れと言った。
あぁ、もういい。
この際もうなんでもいいよ。
あんたが誰だろうがこの警告音がなんだろうが、そんなのどうでもいいよ。
保健室に迎えに行って、家に連れて帰る。
それがあたしの役目だからさ。
だからいいよ。
帰ろう、家に。
連れて帰ってやろうじゃないの。


