は、え、なに、うそ。
無意味な単語が頭の中を回る。もうその時点であたしは心拍数を上げていた。
誰が倒れたかなんて、振り返らなくてもわかりきったことだったから。
だってここ、人通りの少ない閑静な住宅地。
「…………っ!」
どうしてか名前が呼べなかった。
無音のまま振り向いた。
ピーッピーッ!
平穏な雰囲気だった住宅地に響き渡る、鼓膜を揺るがす警告音。
そのサイレンの“理由”に、もしかしたらあたしの頭のどこかは、すでに気づいていたのかもしれない。
だから、名前が呼べなかったのかもしれない。
アスファルトに横たわる、“彼”の名前が。
「……っ、そ、んなっ」
気がついたら、体が勝手に動いていた。
指一本微動だにしない彼に駆け寄り、上下する肩に手を置いて揺する。
耳障りな警告音は、彼に駆け寄ると同時に音量を増した。
どう考えても、“ここ”から鳴っているとしか思えなかった。
「うそ、ねえちょっと、だいじょうっ…」
大丈夫。
そう問いかけようとしたあたしは、けれど彼の右手があたしの腕を掴んできたことで、口を閉じざるを得なかった。


