響いてきた電子音。
聞いたことのある音。
っていうか、聞き慣れた音。
あたしは思わず振り向いた。
遠くの方に、倒れている女性が、ひとり。
「……ちょっとごめん行ってくる。」
「え、ちょっとキョウちゃん?」
未来さんが慌ててあたしを呼びとめようとして、けれどあたしの視線の先に気が付いたのか。
「……あー、なるほどー」と、うなずいた。
春人は状況がつかめないようで「ど、どうしたんですか?」ときょろきょろしている。
泉と弥生さんは、仕事柄あの音に敏感なのかなんなのか、とうに気が付いているようで。
「キョウちゃんホンマ…卒業したらウチの仕事場来たらええのに」
「いや、遠慮しときます。」
「ミヤコが来たら俺が仕事しにくそうだしマジ勘弁ー」
「逆に行ってやりたくなってきた。」
「え、もしかしてあの倒れてるのって……」春人がようやく思いついたらしい。
「さっき電子音聞こえるって言ってからねキョウちゃん」未来さんは呆れ顔である。
泉があたしの背中を押した。
「……行って来れば?」
振り返る。
見慣れた顔ぶれは、若干呆れたように、けれど笑ってあたしを見ていた。
どうやらあたしは、卒業式の日まで、こういう出来事に首を突っ込んでしまうらしい。
もはや病気だ。
だけどあたしは、この病気が嫌いじゃない。
「……じゃあ、ちょっと行ってくる。」
あたしはみんなに背を向けて、倒れる女性の方へと向かう。
「先行ってるからねー!」と背中を追いかけてきた未来さんの声に、あたしは右手を上げて答えた。
「……もう1年…かあ…」未来が空を見上げてつぶやく。
「……そうですね…」春人も空を見上げて言った。