そんなことない、と咄嗟に否定した。
あたし等は優しいことなんかひとつもしてない。
当たり前の日常を送ってただけだ。
その日常に、ノアが溶け込んでいただけで。
ノアはもう、あたし等には、居なくちゃいけない存在になっていた。
「……アンドロイドに、新しい感情が芽生えてはいけない」
泉の言ったその一言は、あたしが、夏に聞いた言葉だった。
「特に“愛情”はタブーだ」
「…………あいじょう?」
「そう」
指折りで3つ、泉は数を数えた。
「ノアには、3つの感情が生まれてた」
「…………え」
「ひとつ、家族愛」
「…………」
「ふたつ、友愛」
「…………」
「みっつ、恋愛」
みっつ、恋愛。
あたしは、体中の血の気が、さあっと引いて行くのを感じた。
恋愛感情は、本当の本当に、いけない。
あの夏の日にあたしは、首を突っ込みすぎた。
あの人が居なくなった理由が、だって、同じじゃないか――。
『……もしかして藍さん、スーさんのことお好きなんですか?』
『……はい』
そう微笑んで、居なくなった、藍さんと。


