あたしはその左手を、机の上で握り締めた。
爪が手のひらに食い込む。痛い。
「……この間から、もう、なんなの…」
喉の奥から絞り出すような声で喋った。
「なんでみんなしてあたしの思考かき乱すんだよもう…ッ!」
「…………。」
「余計なことばっか言うくせに何も教えてくんないしッ!」
「…………。」
「わかんないもんはわかんないんだってばッ!」
「…………。」
「なのになんで余計なことばっか…!」
「…………。」
「あたしはただ、普通に過ごしてればそれでいいのに…ッ!」
鞄に向かって喚いているようだった。
ノアの気配が近づいてきて、視界の端で手を伸ばす。
その手は、あたしの握り締めた左手に重ねられた。
「……ミャーコ」ノアの声が頭上から降ってくる。「一番普通に過ごせてないのは、ミャーコだよ。」
そんなことくらいもう。
とっくの昔に気付いてた。
「…あのさ、ミャーコ。」
「…………。」
「怖くないよ。」
「…………。」
「怖くないから、大丈夫。」
「…………。」
「だから少し、逃げるの待って。」
急ぎ足で逃げ回る、あたしの脳内に響くノアの声。


