掴んでいた春人の手を、無意識の内に離す。
春人はあたしから離れると立ち上がり、あたしのことを一瞥もしないで「お邪魔しました…」と部屋を出て行った。
あたしは意図せず、春人が出て行ったドアを見つめた。
代わりってなに。
あたしが泣かないから、代わりに春人が泣いてるって、なにそれ。
あんたが泣いたところで、あたしにはなんの変化もないでしょうに。
っていうかどうして泣くの。
どうしてみんなして、あたしのお母さんのことでそんなに泣けるの。
あたしが泣いてないのに、なんでみんな泣けるんだ。
なんであたしだけ、冷血人間みたいに……。
「……あんたって、バカだよね。」
テーブルの一点を見つめていたあたしに、ノアが言い放った。
あたしは反射的に顔を上げる。
ノアは置きっぱなしの春人の荷物を片付けているところだった。
表情は、至って、普通。
「……なにそれ。」
「文字通り。バカってこと。」
「ある意味否定しないけど。」
「俺が言ってるのはそういうことじゃない。」
ジャッ!と。
春人の鞄のチャックを閉めて、ノアはあたしに瞳を向けた。
感情の読み取れない冷めた瞳は、あたしを映すばかりで、答えは絶対見せてくれない。


