「……本当のお母さんはね」だからあたしは言った。「もう居ないよ。」
途端に、春人の目には、涙が溜まった。
それはとめどなく溢れ出て、春人の頬を伝って、課題の上にポタリと落ちた。
「……どうして」春人は涙も拭わず問う。「どうして早く、言ってくれなかったんですか…」
あたしは春人にティッシュを手渡す。
それを震える手で受け取った春人を見届けて、あたしは答える。
「……そうやって、泣くと思ったから。」
「当たり前じゃないですか…っ、だってもう…っ、本当の先輩のお母さんは…っ」
「うん。でもね春人、あたしは別に悲しいなんて思ってないよ。」
「どうしてですか…っ」
「だってお母さんは、あたしとか家族のことを思って、アンドロイドになってくれたんだからさ。」
「…………っ」
「だから、悲しむのはなんか違うよなって、あたしは思うし。」
「…………でもっ」
「あとなんていうか、あたし今までアンドロイドにちょっと関わって来たけど、みんな結構、自分の境遇とかちゃんと受け入れてるでしょ。未来さんとかさ。」
「…………っ」
「それなのにあたしだけ現実受け入れないって、それは違うかなって思ったって言うか。」
「…………じゃあ、キョウちゃん先輩は、泣かないんですか…っ」
ぼろぼろ零れる大粒の涙を懸命に拭う春人を見て、あたしは少しだけ笑いながらうなずいた。
「うん、泣かない。」
お母さんは、お母さんだし。
そう付け加えて、あたしはお母さんを見た。
お母さんはあたしを見ていて、目が合うと少し困ったように笑った。
未来さんは隣で「えーちょっと今の話なにーあたしのこと褒めてるの?もっと褒めてもいいのよ?」とか言ってきてうざいし春人は涙と鼻水でふがふがなってて可哀想だしてんやわんやであった。
そんなあたしを、ノアだけは静かに、見据えていたけど。


