そこには見覚えのある人物が立っていた。
その人もあたしを見ていた。
目が合うと、呆然としたような口調で、
「……キョウちゃんやんか…」
弥生さんはあたしのあだ名を口にした。
なんだか懐かしい気がする。
その呼び名は、ここ数日、あまり聞いていなかった。
あたしはのろのろとシートベルトを外そうとする。
けれど力が入らなくて上手く外せず、このままでもいいか、なんて思ったところに後ろから手が伸びてきて、あたしのシートベルトをカチリと外した。
手を追って視線を後ろへやると、ノアが身を乗り出すようにして、手を伸ばしていた。
「……外れたよ。降りな。」
ノアはあたしを宥めるようにそう言った。
いつもならきっとムカついていただろうそのセリフに、しかし今はそんな気力さえ起らなかった。
「…うん。」と小さくうなずいて、あたしは助手席のドアを開けた。
足を地につけると、膝が言うことを聞かずにガクンと体勢を崩す。
こけそうになったところで、いつの間にそこに居たのか、泉の手があたしの腕を掴んで支えた。
ノアに助けを求めたり、泉に支えてもらったり。
今日のあたしは、ひとりじゃとても、立っていられないらしい。
「……いずみ」
あたしは片腕を預けたまま、兄貴に小さく呼びかける。
うつむいたままのあたしの視線は、アスファルトに並ぶ4つの靴を見下ろしていた。


