それからお母さんの手を握ろうとしたので、あたしは咄嗟に泉の手を掴んだ。
泉があたしを振り返る。あたしは首を振った。
「……泉、あのさ、お母さん…」
「知ってる」
あたしの言葉を遮って、泉は静かにそう言った。
「……母さんが今、どれだけ冷たいのかも、知ってるから」
言いながら泉は、あたしの震える手をそっと握って、自分の腕から離した。
泉の手は、今のあたしの体温よりも、あたたかかった。
……なんだ、知ってるのか。
それなら、いいや。
あたしの手から力が抜けると、泉はあたしの手をゆっくりと離し、その手をお母さんの首の下に差し込んだ。
もう片方の手は足に持っていき、そのまま抱え上げる。
「……ノア、玄関開けてきて。病院行くから」
「わかった。」
ノアがリビングを出て行く。その後を泉が追っていく。
あたしはどうしたらいいかわからず、ふらふらと立ち上がり、誰も居なくなったリビングを出た。
玄関はすでに開いていて、家の前に停まっている見慣れない車が視界に入った。
泉が玄関を出て行こうとしていたので、あたしも追って行こうとしたら、「ミヤコ」と泉の声があたしの足を止めた。
廊下で立ちすくむあたしは、泉からの次の言葉を待っている。
来るなと言われるのか、ここで待ってろとでも言われるのか。
どちらにしてもあたしは今、見たことも聞いたこともない泉の様子に、少しばかり、いや、かなり混乱していた。


