しばらくして、ふと携帯を取り出したノアは、誰かの電話番号を探して通話ボタンを押した。
微かにコール音が聞こえる。
5回くらい鳴ってから、コール音が途絶えた。
誰かの声が聞こえたけど、電波の向こうに誰が居るのかまでは、認識できなかった。
「……今ちょっといい?」ノアが言う。
電話の向こうで声がする。
たぶん『大丈夫』とかそんな答えだったんだろう、ノアは相手に向かって喋り出す。
「俺今、ミヤコの家に居るんだけど。」
今コイツ、あたしのことミヤコって呼んだ。
なんてことを、ぼんやりする頭で思った。
「母親が倒れてる。急いで来て。」
途端に電話の向こうが静かになる。
そうかと思えば何かを喋ってすぐ、向こうが通話を一方的に切断した。
ノアは携帯をパチンと閉じてポケットにしまう。
あたしはその一部始終を見届けてから、口を開いた。
「……今、誰に電話したの…?」
ノアは横目にあたしを捉えた。
「……すぐわかるから、それまで待って。」
そうか、待てばいいのか。
あたしはそれ以上聞かず、けれど何をするわけでもなく、ただひたすら言われた通り、座り込んで答えを待った。
お母さんは相変わらず冷たいまま。
充電してあげたいなと、何も考えられなくなった頭の隅っこで、微かに思った。


