コール音が鼓膜を揺らす。

もう10回は鳴っている。

寝ているかもしれない。

コールに気が付いていないのかもしれない。

きっと出ない。出ないのだ。

助けを求める方法を、相手を、間違っているのかもしれない。

そう思ったら、自然と携帯を持つ右手が耳を離れた。

呼び出し中のディスプレイを眺め、通話終了のボタンを押そうと親指を動かす。

直後。



『……――はい』



スピーカーから、聞き慣れた声が響いた。

それは、あたしの後輩によく似た、けれど冷たい、声。

あたしが今、助けを求めていた、声。


崩れ落ちそうだった。


「……ノア?」


電話の向こうに居る相手の名前を呼ぶあたしの声は、柄にもなく、震えていた。


『うん、俺だけど。』

「……よかった…」

『なに、どうかしたの。っていうか、ハルに用?』

「……違う、ノアに用がある」

『俺に用。』

「……うん、ごめんこんな時間に」