人はひとりじゃ生きられないという話を、よく耳にする。

あたしは誰かに頼ったことがない。

支えられて生きていることは知ってる。未来や、春人や、家族に。

だけど自分から、誰かに助けを求めたことなんてなかった気がする。

だから今、どうやって助けを求めたらいいのかわからない。

「助けて!」と叫んだら、ヒーローか誰かが飛んできてくれるんだろうか。

ヒーローって誰だ。誰かって、誰だ。



――『あんたってさ、自分のことはわかんないんだ』



昼間に聞いた、あの言葉が不意に脳内で反響した。

それは今頃になって、あたしの心臓を突き刺す。

わかんなかった。

わかってなかった。

知らなかった。

誰かに助けを求める方法を知らない自分を、あたしは知らなかった。


「……今もまだ、心配してくれてる…?」


――ノア。


掠れた声でつぶやいて、ゆらり、立ち上がる。

リビングを出て、自室へと向かう。

ドアが開けっ放しにされた部屋に入ると、あたしはベッドの上に放り投げていた携帯を、お母さんの手の冷たさが残る両手で握り締めた。

時刻は夜中の11時を過ぎている。

携帯を持っているのは、今助けを求めたいその人じゃないかもしれない。

しかしどうやらあたしの思考回路はめちゃくちゃなようで、そんなことどうでもよくて、ただただ彼に助けを求めたかったのだ。