足が見えた。

スリッパをはいた足が見えた。

お母さんのお気に入りの、小さな花がひとつだけついた、かかとの少し高いスリッパ。

それをはいた、足。

お母さんの、足だ。



「……――お母さんッ!!」



声が裏返るくらい叫んだ。

金切声のようだった。

自分の声ではないような気がした。

でも間違いなく叫んだのはあたしだった。


わけもわからず駆け寄る。

キッチンの床に散ったおかゆ。

お盆から投げ出されたスプーン、お皿。

その傍に倒れているお母さん。


血の気が引いた。



「……おか、さ…」


唇が震えて言葉がつむげない。

崩れ落ちるように膝を床につけたあたしは、倒れるお母さんの手に触れた。

冷たかった。


あえぐ声すら出なかった。


寒くて冷えたそれじゃない。

息を引き取った人の冷たさとも違う。

それはあたしが、春の頃に知った、冷たさと同じだった。