いや、いや違う、違うぞ。
これは何かの間違いだ、あの春人が服を畳めるわけがない。
だって、あたしが中学校生活の2年を費やして服の畳み方やら掃除の仕方やら、いろいろ教えてきたって言うのに、それらをまったくこなせなかったヤツなのだ。
おい誰だ今「保護者か」ってツッコんだヤツ。上等だちょっと表出ろ。ごめんあたしが一番思った。
とにかく、そこまで不器用で物覚えの悪い春人が、まさか1年ほどでここまで綺麗に服を畳めるようになっているわけがない。
だから、信じられないような瞳で、今目の前に居る春人(仮)を見上げてしまうのは必然も必然。
けれど春人(仮)はまったく気にしていないようで、らしくない無表情であたしを見る。
そしてこれまたらしくない喋り方で、
「助かった。どーも」
と、感謝の色がまったく見られない言い方でお礼を口にした。
唖然だ。
開いた口が塞がらないって言いたいけど残念ながら口は開けてなかった。
ただ呆然とその場に佇むしかできなかった。
春人(仮)はそんなあたしを気にも留めず、颯爽とその場から去って行く。
おいこら颯爽と去って行くなよちょっとキョウちゃん先輩いろいろ聞きたいことあるんだけどって待てよおい。
心の中でそんなこと言っても、去って行く背中に届くわけがなく。
いつの間にか周りに生徒の影はなく、桜の木の下にあたしのみ取り残されていて。
首にかけてるヘッドホンから、ただシャカシャカと、ロックがエンドレスリピートされていた。
っつーかマジでデジャヴだろこれ。別に寂しくなんかないけど。