『明日の夕方には、壊れていると思います』
藍さんの言葉が脳内で再生される。
その夕方、藍さんはスーさんに何も告げないまま、ひとりで息絶えて行くんだろうか。
いいのかそれで。
もうすぐ夕方だ。
藍さんが何時に故障するのかわからない。
いつこの世からいなくなるのかわからない。
わからないけど、このまま藍さんが消えて行っていいとは思わない。
思えない。
藍さんはまだ何も、言いたいこと言えてないんじゃないのか。
昨日あたしに話してくれたようなことを、スーさんに言わなくていいのか。
いいわけないだろう。
藍さんはまだ何も言えてない。
スーさんだってまだ、いつもの変な方言も、本の感想も、やっと買えた指輪も、自分の気持ちだって、何ひとつ藍さんに、言えてないんじゃないのか。
そんなのってないだろう。
あたしは恋とか愛とかなにひとつ興味ないしわかんないけどさ、でも今のこの感じはよくわかる。
このまま2人が、会えなくなるのは、すこぶる良くない。
――ガタッ
椅子から立ち上がると、未来さんが顔を上げた。
「どったのキョウちゃん」と聞いてくる。
あたしはそれさえスルーである。
もうすぐ終わる補習。
もうすぐ訪れる夕方。
時は一刻を争うのだよ未来つん。


