あたしたちが聞いたら、笑って呆れるかもしれない。
そんなアホみたいな話信じるか、なんて笑い飛ばすかもしれない。
けれど藍さんは、そんな鈴木のスーさんの、アホみたいな話に、救われたんだな。
「……それから」藍さんはひとしきり笑った後、息を吐いて、手元を見つめた。
「それから、わたしは、この胸のあたりが、ほかほかするような感覚をおぼえたのです」
ほかほか、と言って、藍さんは自分の胸のあたりに右手を添えた。
「今まで、楽しいですとか、悲しいですとか、そういう最初からインプットされているような、感情に似たものは感じたことがあったのですが、その感覚は初めてでした」
「…………。」
「結局わたしは、その感情に知らない顔をして、鈴木さんとお話したり、CDや本を貸し借りさせていただいていたのですが……」
「…………。」
「この間、鈴木さんにお借りした曲を聴きながらと、わたしの持っていた本を読んでいましたら、わかったのです」
「……わかった?」
「この、胸のあたりが、ほかほかする感覚の、名前です」
「名前……」
藍さんは少し、恥ずかしげだった。
「その曲も、わたしの本も、恋物語でした」
あ、と思った。
あー、なんだそうか。
藍さんも、同じだったんだ。
スーさんと。
「……もしかして藍さん、スーさんのことお好きなんですか?」あたしは尋ねた。
「……はい」藍さんはほんわか、微笑んだ。


