「……ですが、本を読まなくても、長谷川さんご夫婦が、いろんなことを教えてくださいました。とっても物知りなんです!」
「へえー。」
「たとえば、蛍なんですけれど、蛍って光っていて、とても綺麗じゃないですか!」
「実際に見たことないですけど、綺麗ですよね。」
「でも蛍を触った後の手を嗅いでみますと、すごく臭いんですって!」
「…………。なんだと。」
「種類にもよるのかもしれないのですが、でもわたし、それを聞いてとてもショックでした……あんなに綺麗な蛍さんが…まさか臭いだなんて…」
あたしでさえも若干のショックを隠せない。
「あとは、昔の遊びを教えてくださったり、懐メロというものを教えていただいたり!」
「楽しそうですね。」
「はい、すごく楽しく生活させていただきました!」
「……それでそのー、さっきから気になるんですけど、全部過去形ですね。」
聞かない方がいいかなとも思った。
触れてはいけないのではないかと。
しかし藍さんは、やわらかな笑みで「…はい」と言った。
「長谷川さんご夫婦は、もう1ヶ月以上前に、天国へ行ってしまいました」
「……そうでしたか。」
「最初は、本当に、よく意味がわからなかったのです。人が死ぬということ」
藍さんは瞼を伏せる。
伏せた瞼の内側に、一体何が見えるのか。
「……それを、教えてくださったのは、鈴木さんでした」
静かな公園に、よく通る声だった。


