どうやら職員室の方からで、「鈴木先生お電話ですー!」という女性教師の声だった。(たぶん英語担当の先生だと思う。名前を憶えてない)
スーさんは慌てて「今行きます!」と返事をしてから、ぽけっとしている長谷川さんに向き直る。
「あの、すいませんまた今度ゆっくり…!」
「はい!もちろんです!」
「あ、っちゆーか朝倉お前補習出ろよ!!サボんなよ!!出らんでも出来ることは把握しちょんけど出ろ!!」
「善処します。」
「善処かよ!!」
「鈴木先生ー!」と再び英語担当の先生からお声がかかったので、スーさんは「すんません!」とかなんとか言いながら駐車場を出て行った。
嵐が去ったようだ。
あたしはスーさんが消えたのを見計らって、噛み殺していたあくびを盛大にさせていただく。
どこぞの昭和みたいなお二方の会話の雰囲気を壊すまいと陰ながら努力していたあたしに誰か拍手を。
「……鈴木さんお忙しかったようですね…申し訳なかったです…」
あくびの後の涙を拭いていたあたしの隣、長谷川さんが言葉通り申し訳なさそうな表情でスーさんの去って行った方向を見つめていた。
あたしはそんな長谷川さんを見下ろして(あたしの方が背が高かった。別に泣いてない)、ちょっと考えてから言う。
「……その本、あたしが渡しときましょうか。」
長谷川さんは顔を上げてこちらを見つめた後、小さく首を横に振って笑った。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です、また今度、会えるようなので!」
……あーそっか。
直接渡したいんだなーと。


