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「――なにちょっと泣きそうな顔してんのミヤコちゃーん」


現実世界のムカつく声にハッとする。

すでにヘルメットは外されていて、あたしはガバッと顔を上げて辺りを見まわす。

そこはファミレスの駐車場だった。

バイクに乗ったままのあたしを、泉はいつもの表情で見ていた。


「……別に泣きそうな顔はしてない。」

「ふーん?まあいいけどー。それよりも早く下りてくれるー?なんならお兄様が下ろしてあげてもいいけどねー」

「だが断る。」


吐き捨てるように言ってから、バイクから飛び降りる。

見慣れたファミレスの看板を見上げ、その先にある空を見た。

すでに群青色に染まりつつある空の色。


ホントはちょっと泣きそうだったかもしれない。


でも泣かない。

泣いてなんかやらないのだ。

10歳の頃のあたしは泣いたけど、このクソ兄貴のチャリの後ろに乗ったまま、わんわんやって泣いたけど。

あたしは成長している。

10歳の頃のあたしは、すでに記憶の中にしか居ない。

10歳のあたしは11歳になり、12歳になって中学に上がり、それから高校へ上がる。