それから走り出した自転車は、かなり遅いスピードだった、ような気がする。
時速どれくらいとかわかんなかったけど、でもそんなに早くなかった。
そよ風が、髪の毛を優しく撫でて行った記憶がある。
夕暮れの空。
群青に染まって行く空。
次第に街の明かりだけになっていく景色をぼーっと見送って。
『……ミヤコー』
前方から聞こえてきた泉の声に、あたしはようやく現実を認識したのだ。
街を通り過ぎ、どこに向かっているのかわからない。
気づけば大きな橋の手前で横切って、土手を走って居た自転車。
『……なに。』
あたしはそう返事をした。
『ミヤコってさー人間じゃねーのー?』
『おまえはバカか。バカなのか。』
『だってさーミヤコって今までぼっちで頑張ってきたわけじゃーん』
『はあ?』
『人間ってさーぼっちじゃ生きていけないらしいんだよなー』
『……ふーん。』
『だからもしもさーミヤコが人間だったらーそのままだと死ぬ運命なわけよー』
『…………。』
『……つまりさー、ミヤコ』
ペダルを漕ぐ音が聞こえる。
風を切る音が耳元を通り過ぎる。
――ひとりでそんな、頑張んなくてもいいんだよ。


