その夜、あたしはお母さんたちに叱られた。
どうしてイジメのことを話さなかったのか叱られた。
どうして気づかなかったんだって聞き返したかったけど、そういえばあたしが上履きとか教科書とか、自分で全部処理していたことを思いだした。
無意識に、気づかれないようにしていたのはあたしの方だった。
そしたら何も言えなくなった。
池田のこととか、これからのこととか。
クソガキながらにあたしは、いろいろと悩んだ。
叱られた後、部屋に閉じこもってずっと考えてた。
その時だ。
泉がいきなり、部屋に入ってきたのは。
ガチャっとドアが開いて、真っ暗な部屋の中に、一筋の明かりが射し込んだ。
その明かりの中、ドアの柱に寄り掛かり、膝を抱えていたあたしを見下ろす人影。
『ミーヤコー。ちょっとドライブ行っちゃわねー?』
母さんたちには内緒でさー。
そう言って、チャリンッと鍵を鳴らした泉のムカつく表情を、今でも結構覚えてる。
当時の泉はたしかまだ17歳の高3で、すでにバイクには乗っていた。
でもあたしが10歳だったから、バイクには乗らずに自転車を選んだんじゃないかと思う。
まあ、泉がそこまで考えていたのかはわからないけど。
泉がいつも通学で使っていた自転車。あたしはそれの荷台に乗った。
上手いこと乗れなかったあたしは、あの時たしか泉に抱えて乗せてもらった気がする。
今じゃ考えられないけど。


