とか言っても今の春人には意味ないんだろうなとは思う。

いつぞやかにあたしがずぶ濡れで桜井家にお邪魔した時くらいには怒っているように見えるっていうかそうとしか見えない。

まあね、あたしとしてはね、春人がこうやって怒るっていうことができるようになったそれがちょっとうれしいとか別にそんなこと思ってない。

だって春人のヤツ、昔は怒るより先に諦めることの方が多かった記憶があるから。

それが今じゃ、


「もう絶対許さないですノアのバカッ!!」


……これだから。


あたしはあぐらをかいたままため息をついて、首にかかる髪の毛をわしわしと払いのける。髪の毛が伸びてきて夏は暑い。

ショートにしたいなーとか無駄なことを考えながら、「あのさ」と。


「あのさ、ちょっと落ち着きなよ。」

「イヤです!落ち着いてられません!」

「まあまあ麦茶でも飲んで。そのまま怒りにまかせて熱出されても困りますし。」

「うっ……そ、そうでした……」


「すみません…」と、ようやく落ち着きを取り戻した春人は、ソファに力なく座り込む。

考えすぎたり怒りまくると熱が出ることを自分で把握しているようで何より。

ソファに座り込んだあと、あたしに言われた通り麦茶を飲んだ春人は、ぼそっと「おいしい……」とか言ってたのでそうとう喉が渇いてたんだろうなと思う。

だってそれ、スーパーで買ってきたお茶だぜ。99円だぜ。クソ安いぜ。

春人はそんなお茶をゴクゴクと飲み干すと、大きなため息をついて肩を落とす。


「……あ、あの…ずっと怒っててごめんなさい…」

「いいえ別に。あたしとしてはお前の成長が垣間見れて嬉しいかぎりだ。」

「せいちょう……?」

「細かいことは気にしたら負けだよ春人クン。」

「じ、じゃあ気にしません!」


地味に負けん気を張る我が後輩ェ。