息をつく。
襟首を掴む手から、少しだけ力を抜いた。
「……さっき、弥生さんのフリをしたあの人から聞いた。本当の弥生さんは、事故に遭って動けなくなったって。だから未来に、心配をさせたくなくて何も教えなかったんだって。」
「……なに、それ……」
「……って、これ全部あたしが言ったらなんか違う気がする。あとはあの人に聞いたらいい。」
言いながら手を離す。
未来の上からどくと、未来はふらふらと起き上がった。
勢い余って馬乗りになってしまっていたことに、説明はしていたくせに実は今気づいたとか言えない。
あたしはもう一度息をついて、地べたに座り込む。
住宅街の隅っこ。また静寂が訪れた。
「……7日間で変われないのは当然だ。あたしだってムリだ。」
「…………うん」
「だけど少しは考えられたはずだ。どうしたら気持ちが楽になるか、もう少し考えられたはずだ。」
「…………うん」
「考えたらわかるだろ。弥生さんの姿をしたあの人を嫌って、逃げたって楽にならないことくらいわかるだろ、未来。」
「…………うん」
「お姉ちゃんだって思えなくてもいい、思わなくたっていい。そんなことはムリだと思うから。」
「…………うん」
「でもあの人は、弥生さん本人でなくても、あの人は“弥生さん”なんだ。煙草が好きで、でも人と大切な話をするときは吸わなくて、おかしな関西弁を喋って、怒ると怖くて、だけど気さくでよく笑って、そして」
――そして。
「……――未来のことがとても大切で、大好きな弥生さん(お姉さん)なんだよ」
うん。
そう、一度だけうなずいて、未来は顔を伏せて泣いた。


