いや、絶対気のせいだけど、でもあたしはそれだけで何故かホッとした。
感情ではなくて、色なのだ、たぶん。
ノアが嫌いなあたしに対して、精一杯何かを表現しようとすると、きっと色が乗るんだと思う。言葉に。
ノアが立ち上がる。
立ち上がってから、いまだにしゃがみ込んだままだったあたしに、手を差し伸べてきた。
「…帰ろう、ミャーコ」
手と一緒に降ってきた言葉は、今から桜井家に行くって言うのに、どうしてか“帰ろう”だった。
暗闇の中でもがいてる時、光の方から手を差し伸べられる人の気持ちって言うのは、こういう感じなんだろうか。
上手く言えないけど、スッと軽くなる感じ。
……表現下手くそだからやめた。
でもこれだけは言える。
差しのべられた手は、絶対掴んでしまうと思う。
「……帰ろうっておかしいでしょ」と、あたしはこの場でもまだ、減らず口を叩く。
「じゃ、行こう。風邪引く」と、ノアはあっさり訂正した。
「だから、あたしは風邪引かないって」
ノアの手を掴んで立ち上がる。
それを見届けてから歩き出したノアは、バシャッと水を蹴り上げた。
壊れたらどうするつもりだこのバカ。
そう思いながら、ノアの背中を睨みつける、あたしの耳に届いた彼の声。
「……ミャーコは、風邪引くんだよ」
その言葉に隠された意味がわかってしまう自分が、至極ムカついて、また泣きそうになった。
だから、繋がれたままの手は、ほどかなかった。


