「…どうしてダメなんだい。」
「ほらほらー、たまにはさ、階段を上ったり下りたりして、運動しましょうって話よー」
うそ。
階段を上りきる。また次の階へと向かう。
ここまで走ってきたあたしの足は、さすがに悲鳴を上げていた。
けれどそれよりも、悲鳴を上げているもの。
目の前の、背中。
「…あのさ、未来」
「なあにキョウちゃん、改まって」
「嘘つくならさ、もっと本気でつきなよ」
「嘘って、またまた……」
「お前さ、嘘つくの下手くそなんだから」
未来の足が止まる。
そこはちょうど、踊り場だった。
「…あはっ」と、未来が笑う。それは“笑う”という表現がとても似合わない笑い方だった。
「…キョウちゃんってそういうとこだけ鋭いよね。でもね、そういうのってスルーしといた方がいいことだってあるんだよ」
「今がその時だって言いたいの」
「そうだよ、キョウちゃん。今がその時。残念だったね、失敗だよキョウちゃん。あたしが嘘ついてることは気づいても言わない方がよかったね」
「…………」
「ごめんキョウちゃん、今日は帰って。鞄届けてくれたのはわかってる、ありがとう。そこに置いて行ってくれたらいいから。だから今日は帰って」
こういう時、背中を向けられたままだと、どうしてこうも傷つくんだろうね。


