あたしは目の前で「ずずずーっ」と鼻をかんでいるどこぞの小学生みたいな春人に、呆れ顔を浮かべてみせる。
っていうかコイツ、合格発表のあと、ものすごい薄着で居たような。
まあ、普通なら風邪をここまで引っ張ることはないと思うけど、春人はかなり長引く方だから不思議じゃない。
「……やっぱ、あの時寒かったんじゃないの」
不思議じゃない、と思ったからあたしは尋ねた。
春人はなんのことだかわからなかったようで、鼻をすんすん言わせながら首をかしげた。
「うぇ、なんのことですか?」
「だから、合格発表のあと。あんた学校来てたでしょ」
「……合格発表のあと?」
あたしの言葉を復唱して、記憶を辿るように目線を上へと持ち上げる春人。
何故わからない。
そこはすぐに思い出せよわかるだろあれだよあれ。
という視線を向けるのに、春人のヤツはまったく思い出す気配を見せない。
しかたなく、あたしがヒントを並べてやることにする。
「桜の木の下」
「桜の木の下…?」
「あんた居たでしょ」
「…………?」
「っつーか、あたしの上着持ってったでしょーが」
「……俺が…?」
「うん」
「先輩の上着を…?」
「そう」


