さくっとそう言うと同時に、あたしはピタリと足を止めた。
後ろを歩いていた春人はそれに気が付かなかったようで、ボフッとあたしのリュックにぶつかった。
だけどあたしは振り返らずに、おもむろに右手を持ち上げて見せる。
そして指を伸ばす。一本。
「ハイ、ひとーつ。さっきのさっきまでぶっ倒れそうだった人に“先に行け”とか言われても行けるわけがないっていうかそれなんて死亡フラグ。」
「……あ、あの…?」
「ふたーつ。言っとくけどあたしは迷惑だとかまったく思ってない。」
「……せ、せんぱい…?」
「みーっつ。春人がちょっと成長するとこキョウちゃん先輩見てみたい。」
「…………」
「っつーわけなんで、“俺を置いて先に行け!”とかいう死亡フラグはへし折りました。アーメン。さあ行こうか。」
あたしはそう言い切って、右手を下ろしてポケットに突っ込み、そのままの調子でまた歩き始める。
後ろからは、なんの声も聞こえなかった。
聞こえてきたのは、先に歩き始めていたあたしに追いついてくる足音だけ。
本当に2人とも、一切顔を合わせずにただただ道のりを歩いた。
なんで後ろを振り返らなかったのかって聞かれたら、あたしはたぶんこう答える。
『だって、後ろから聞こえる足音が、しっかり前に進んでる音だったから。』
いつだったか、あたしが春人に向けて言った言葉を、今ここで撤回してやろうと思う。
ごめん春人、あたし間違ってた。
お前やっぱり、成長してるよ。


