いやいや、それならなおさら悪い。
あたしは春人のすぐ傍に駆け寄って立ち止まり、地面に鞄を置く。
それから着ていた上着を脱いで、じっと突っ立ってる春人に着せた。
「あんたバカじゃないの」
「…………」
「人一倍風邪引きやすいクセにそんな薄着とかありえない」
「…………」
「…っていうかお礼の言葉とかないのかしら」
「…………」
「…………」
なんで何も言わないのこの人。
なんでずっと黙ってあたしのこと見てんのこの人。
や、待って。
っつーかなんでここに居んのコイツ。
あれ、帰ったよね。
『先輩、また新学期に!』とか両手ブンブン振りながら帰って行ったよね春人クン。
私服に着替えてまた来たのか?
え、いやでもなんで来たのって話だよね。
ってか春人はいっつもちゃんと厚着してたよね風邪引いてみんなの手取りたくないからってちゃんとしっかり温度調節してたよね。
じゃあなんで今ここに居る春人はこんな薄着してんの。
え、いや待って、春人だよね。
今目の前に居るのって春人だよねそれ以外に誰が居るの双子だったっけいや一人っ子だったよね春人ママはいつも『もう一人欲しかったんだけどね~』って言ってたしね。
つまり今目の前に居るのはやっぱ春人でしかないわけであってでもなんか雰囲気違うっていうかまったく違うしお前誰だよって勢いでオーラ違うし
ってちょっと待て自分マジ落ち着け。


