この距離じゃ、泉に名前がバレてしまう。
それなら“春人”と呼べばいい。
けど今、ここに居るのは春人ではないのだ。
春人の身代わりになって生きる、アンドロイドなのだ。
――ふと思う。
ノアは、自分が“春人”と呼ばれることを、どう思っているんだろう。
……なんて聞いたところで、ノアがちゃんと答えてくれる気もしないけどね。
あたしは名前を呼ぶ代わりに、ノアの頭を撫でた。
ノアは返事もしないし、目も開けない。
でも少しだけ、息を大きく吸った。
息をよく吸える程度に落ち着くならと思って、あたしは桜井家に着くまでずっとノアの頭を撫でていた。
髪の毛の質も、色も、触り心地も春人と同じ。
だけど今、あたしが頭を撫でているのは、紛れもなく、ノアなのだ。
*****
『今日は春人ン家泊まるから』
それだけ泉に伝えて、あたしは桜井家にお邪魔した。
玄関を開けるや否や、リビングのドアが勢いよく開いて、本物の春人が現れた。
今某ポケットにモンスターのゲームを思い出した人は帰っていいです。
……なんだあたしだけか。


