ノアにしてはわかってらっしゃる。
あたしは「わかった」と言って立ち上がる。我ながら女優である。
それから先生に向かって、
「すみません、ちょっと家族呼んできますね」
とだけ伝え、踵を返す。
その流れでラウンジをいったん出て行こうとしたあたしは、けれど。
「…あの、朝倉さん」
後ろの方から聞こえてきた手嶋先生の声に、ドアを開けようとしていた手を止めた。
振り返るのがあまりよくない気がした。
いつもと様子が違うような先生の声色に少し、嫌な予感がしたのだ。
でもこの距離は確実に声が聞こえる距離で、振り返らない方が逆に不自然に思えたから、あたしはできるだけ平然を装って肩ごしに手嶋先生へと顔を向けた。
大根役者ですいません。
「…なんでしょうか」
手嶋先生と目が合ってからそう聞き返すと、先生は少し戸惑ったように答えた。
「…あのね?その…私が考えすぎなのかもしれないんだけどね?」
「……はい」
「あんまり気にしないで聞いて欲しいのだけれど…」
「わかりました」
「…うん、そのね?…桜井くんのことでちょっと、思うところがあってね…?」
来たか、と思った。


