ドアのせいで顔は見えない。

返答もないからなんにもわからない。

だから、言うだけ言ったぞって感じであたしはドアから顔を背ける。

別に返事がなくても言いたかっただけだからそれでいいし。

そう思いながら、閉めてなかったカーテンに手を伸ばし、シャッと勢いよく窓と部屋の間に壁を引いた。



「……おやすみ」


フッ、と。

カーテンの揺れを見つめていたら、ドアの向こうからそんな声が聞こえた。

無意識の内に振り返っていた。

そこにはドアしかなくて、ノアの姿は見えない。

表情すらもわからない。

のに、何故かちょっと、“おやすみ”と言ったノアの声色が、さっきよりやわらかいような気がした。

……まあ、気のせいだろうけど。


隣の部屋のドアが、バタンと閉まる音が響く。

聞こえないとわかっていながらもなんとなく「…おやすみ」と返した。


いつの間にか、春人はすやすや夢の中で。

でもいまだにあたしの手を握ったままだったので、なんかちょっと笑ってしまった。

夢の世界に聞こえればと思いつつ、春人にも「おやすみ」を言って、隣にお邪魔する。

さてさて睡魔よいらっしゃい。

目が覚めたら慌ただしくなりそうなので、今日はぐっすり眠っておくに限る。


とりあえず、明日から本気出す。