「寒っ」
歩いて暖まった身体も、だんだん冷えてきた。
風邪でもひいたら大変。さっさと寝よう。
明日も、郁ちゃんの前で“可愛いひな”をやらないといけないわけだし。
重い体をなんとか持ち上げて、立ち上がる。
靴を脱いで、スリッパに履き替えて…
家の中に足を踏み入れて始めて思い出した。
「そっか、今日は…」
灯りの消えたリビング。
無人のキッチン。
普通なら寂しさを感じるところだけど、私は違う。
まさに、絶好のチャンス。
いい口実ができる。
さっきまでの気だるさはどこへやら。
私の心は、簡単に回復。
にんまりしながら、ケイタイを取り出していつもの番号にかけた。
「もしもし?私っ。今すぐ来て?今日、誰もいないの」
要件を伝えたら、有無を言わせずさっさと切る。
そうすれば絶対に、キミは来てくれるから――

