「…………じゃ、私、夕方の回診あるから。帰るね。」
「え?あ、ちょっと……」
「またねー!!」
足早にその場をあとにする夕凪の背中を見ながら、僕は誰もいないと思っていた塔でのその衝撃的な出会いに、ただ呆然としていた……。
「夕凪…………か……」
「……必ずまた会う……」
僕はそんなことをを呟きながら、この人がめったに来ない場所で、今日会ったばかりの夕凪という女の子の存在を胸に留め、夕凪が帰ったあとも、夕焼けの町をぼーっと見ていた。
でも僕は、その町が、今まで見てきた風景となんら変わりはないはずなのに、夕凪と会った前後で、なぜかいつも見ていた町とはなんとなく違う感じがした……
でも…………もちろん僕はこのときまだ気付いてなかった。
まさか自分が一人の女の子の止まりかけた運命の歯車を動かしはじめたことなんて…………

