学園(姫)

俺は町のあちこちを探ってみたが、乾は姿を見せない。

もしかすると、学校のどこかで待機してるのではないかと思えてくる。

そりゃ、龍先輩の護衛だからな。

他にもやることがあるとはいえ、頼まれた事をおろそかには出来ない。

「ち、しくったか」

俺は学校に戻ろうとする。

喫茶店を横切ろうとすると、見覚えのある姿を見る。

「ん?」

乾が一人コーヒーを飲んでいる。

俺は急いで店の中に入り、乾の後ろに立った。

「あんた、こんなところで何してんだよ?」

俺の問いには答える素振りを見せず、コーヒーを一啜りする。

追求するのもなんだし、少し自分を落ち着かせる。

誰だっていきなり怒鳴りつけられれば、答えたくなくなる。

「乾子鉄に俺のクライアントに会うように言われたようだな」

俺が少し黙っていると、乾が呟いた。

やはり、乾は乾子鉄のことを知ってる。

さすがに、近くにいるのだから当たり前か。

「そんなとこまで知っているのか」

「龍姫に関わっているお前の行動など筒抜けだ」

コーヒーを皿の上に置き、俺を見る。

帽子の奥から見える目つきは相変わらず鋭く、胸を圧迫してくる。

「クライアントの事は言わん。諦めろ」

「このままじゃ、龍先輩が納得のいかない事になっちまうんだよ」

「仕事上のルールを破る事がどういう意味を表すか分からんわけでもあるまい」

乾は社会人で働いている。

クライアントの情報を流すというのはルール違反であり、信用を失うという事。

信用を失うという事は、乾の仕事がなくなるということだ。

保身でもなんでもない、当たり前の事なのだ。