学園(姫)

乾の姿がない。

もう去ったというのか。

「くそ」

俺は校門から出ようとすると、肩をつかまれる。

「おいおい、どこに行く?」

高井教師が怪訝そうな顔を俺に向けている。

授業が始まるのに帰ろうとしてたら、疑るのも当たり前だ。

「ちょっと忘れ物しまして」

「それはお前の過失だ。諦めろ」

「先生、すいません。今日、絶対にいるもんなんです!」

「これから授業だろうが」

俺が動こうとしても、前へ進めない。

高井教師の筋力の凄さを物語っている。

しかし、柔軟性がないな。

「親御さんにでも俺から言っといてやるから、お前は授業に出ろ」

「出来ないんっすよ。今日はいないんですって!」

「こっちも安易にお前を見逃す事は出来ねえんだよ」

「なあ、恭耶、あんた弁当忘れてるで」

傍に立っているのは高井教師の嫁である高井刹那さんだ。

「お、わざわざ届けてくれたのか。すまねえな」

「ふん、まったく、忘れたあかんってあれほど言ったやんか」

高井教師は俺の襟首から手を離す。

「先生、すいません!」

俺はすり抜けて、校門から出る。

「おい、刹那、お前、わざと今届けに来ただろ?」

「何のことかわからん。というか、あんたも忘れ物してるんやから、人のこと言える立場ちゃうわ」

「まったく」

後ろで高井夫妻の会話を聞きながらも、俺は乾を探すために町へと向かった。