子鉄はケースを持ち上げて、玄関の方へと歩いていく。

俺は見送るために後に続く。

「本当にどうにも出来ないのか?」

靴を履いている子鉄に問いかける。

答えが返ってこない。

本来なら答える義務なんてない。

無言のままに立ち上がり、扉に手をかける。

「美味かったわ」

背中を向けたままで言葉を発した。

「渚さんの得意料理なら、感動できるはずだぜ」

立場上、敵という判断も出来るのだか、本来のところはクラスメイトなのだ。

仲良くするのは当然である。

「あんたは、このまま抗うつもり?」

「納得出来ない事だからな」

「龍姫が別れると答えたとしても?」

「裏が見え見えの事に頷くわけにゃいかねえよ」

「そ」

子鉄は扉を開けた。

「クライアントを訪ねなさい」

それだけを言い残し、子鉄は去っていく。

「クライアント」

クライアントというのは雇い主の事だろう。

子鉄の雇い主を訪ねても意味はない。

門前払いされるか、警察に通報されるかってオチだろう。

なら、誰のクライアントというのか。

答えは簡単である。

「乾光蔵か」

独り言のようにつぶやき、明日の行動を考えた。